大判例

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広島高等裁判所 昭和62年(う)297号 判決

論旨は,要するに,原判決は被告人が古カーペット,新聞紙5枚くらい及び麦わら帽子に順次放火してこれらをそれぞれ焼燬し,公共の危険を生じさせた旨認定したが,公共の危険は生じておらず被告人は無罪であるから,原判決には事実誤認があり,ひいては法令の適用にも誤りがあって,いずれも判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。

そこで,所論にかんがみ記録を調査して検討するに,原判決挙示の関係各証拠を総合すれば,公共の危険を生じさせた旨の原判決の認定判断はこれを正当として肯認することができ,当審における事実取調べの結果もこれを左右するに足りない。以下若干補足して説明する。

1 所論はまず,古カーペットの放火については,その位置,母屋の構造等から母屋に延焼する危険性はなく,また被告人は放火した後自らの手で消し止めているから,公共の危険は生じていない旨主張する。

確かに,関係各証拠によれば,甲方の母屋はモルタル塗りであること,古カーペットは右母屋玄関横に置かれていたもので,その接していたところから上方約80センチメートルの部分はレンガ壁であること及び被告人は放火した古カーペットの消火行為を自らしたことが認められる。

しかしながら,関係各証拠によれば,古カーペットは相当の厚さでしかも機械油が染み込んでいたものであること,古カーペットの炎は焼燬部分がわずかであったのに比して大きかったこと,古カーペットの直近には木の柱が存在していたこと,当時空気はかなり乾燥し風もあったこと,被告人は放火した後,これに気付いた甲らの動きを見,自らも危険を感じてあわてて燃えている古カーペットを母屋から離した上これを消したことが認められ,右各事実によれば,古カーペットが全部燃えた場合火勢はかなり強くなったであろうことが推測され,火勢によっては直近の柱等に延焼する可能性も否定できず,現に右認定のとおり被告人自身危険を感じていち早く古カーペットを母屋から離していることにも徴すると,被告人が消火する前の段階で公共の危険が生じていたと認めるのが相当である。所論は採用できない。

2 所論は次に,古新聞紙5枚くらいの放火について,新聞紙は燃え尽きそのまま自然鎮火したもので,その位置,母屋の構造等からみて公共の危険は生じていない旨主張する。

確かに,新聞紙はモルタル塗りの母屋の出窓の下に置かれていたもので,これが燃え尽き自然鎮火しているのは所論のとおりであるけれども,関係各証拠によれば,右新聞紙の下にあったダンボール箱数箱もすべて焼燬していること,新聞紙及びダンボール箱の下にあった鉄材が広範囲にわたって黒く変色していること,新聞紙等の焼燬した付近には被告人が麦わら帽子に放火した現場があり,同所には別のダンボール箱等燃えやすい物が沢山あって,しかも鉄工作業場のベニヤ板壁がこれらに接していたこと,新聞紙等の燃え火の一部が飛んで付近にあったテーブルクロス様のものに火が移り,その一部を焼燬していることが認められ,右事実に前認定の当日の気象状況を併せ考えると,新聞紙等の火勢は相当強く,飛火等により鉄工作業場及び母屋へ延焼する可能性もあったというべきであり,公共の危険が生じていたと認めるのが相当である。所論は採用できない。

3 所論はさらに,麦わら帽子の放火についても公共の危険が生じていなかった旨主張するけれども,右麦わら帽子の材質,焼燬の程度,これが掛けられていた状況,麦わら帽子の直下にダンボール箱等燃えやすい物が存在していた状況,さらにこれらが鉄工作業場のベニヤ板壁に接していた状況等に照らせば,甲によって消火される前に公共の危険が生じていたことは明らかであり,この点に関する原判決の認定判断はこれを肯認することができる。所論は採用できない。

以上のとおりであって,所論はいずれも採用できず,原判決に事実誤認及び法令の適用の誤りは存しない。論旨はいずれも理由がない。

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